罪なほどに甘い
 


     
7.5



これまでに覚えのないほどの高まりに身をゆだね、
気を遣ってしまった敦は、そのまま意識も飛ばしてしまった。
意識を失うだなんて、そうそうあってはならぬこと。
激しい戦闘の末に疲弊困憊して…という展開でないというに、

「お、起きたか?」

そんな柔らかな声を掛けられた目覚めに微妙にうろたえ、
一瞬 此処ってどこだと焦ったものの、
それは落ち着いたお顔の中也に覗きこまれていることで、
ああそっかと理解が追い付きホッとする。
ああまで熱っぽくて意識も朦朧としかかるほどだったのが、
今は嘘のようにすっきりと消え失せており。
我を忘れてしまい、
あの月下獣の異能が放たれやしないかというのも懸念されてたはずだったが、
そっちも尻尾さえ出ては来なかったようで。

 「そういや、耳も引っ込んだな。」
 「え?」

完全に忘れ去ってたと、あったはずの場所を手で撫でればそれへ中也の手が重なる。
そのままうりうりと髪を掻き回すように撫で繰り回され、
もうすっかりと落ち着いているところが、
ちょっとなんだかあのその“旦那然”として見えて、

「? どした?」
「いやあの、えっとぉ。////////」

勝手に思ったことで あわわと焦っていては世話はなく。
うにむにと照れておれば、どうかしたかと恐らくは判っていようにつつかれて。

 「だ、だから…。////////」

普段なら素直に甘やかされているものが、今日は何故だか落ち着けない。
普段とは違うことにいっぱい翻弄されたのに、こうして落ち着いていて。
ごめんなさいとかありがとうじゃあないのは判ってるけど、じゃあ何なんだろうか。
穏やかに低められた声といい、やわらかな表情といい、
相変わらず頼もしくも惚れ惚れする中也の余裕のある態度もいつもと同じで、
大変な事態を乗り越えたの揉み消すみたいに、安心安堵を誘うばかりな筈なのに。

 同じじゃいけないはずなんてないのに、
 じゃあ何で落ち着けないのかな?

ああそうか、自分の側が変わらなきゃなのかな。
でもじゃあどう変わればいい?
中也さんに相応しい人間になんてそうそうなれるはずないし、
ああでも、いつまでも子供のまんまでいいのかなぁ……。////////

 「だから…ずっと大人な人を好きになるのって、
  ホント大変なんだから。////////」

ああもうと開き直ったか、
日頃は甘えるときでさえ丁寧な言葉遣いもやや粗いまま、
切々と訴え始める敦であり。

 「中也さんに恥を掻かせてないかとか、
  いろいろ思って大変だけど、でも、好きなんだもん。
  そうと思う気持ちはどうしたって止められない。/////」

もしかして自棄になったか、
平生は大人しくも口にしなかろコトまでポンポンと言い立てている彼へ、
驚いているものか、敦の髪を撫でていた手も止まり、
ただただこちらをじいと見つめるばかりの中也であり。
もはや返事も要らぬか、敦は言葉を続け、

 「それでなくとも、ボク、こういうことの慣れなんてなくて。
  でも、こうしてると“もっともっと”って思うの止められないし。」

一緒にいても不安になるのは
敦が しがみつき方や甘え方を知らないからだと、
いつだったか中也は言っていた。
そんな自分への禁忌が図らずも解けた今、
もっともっとがあふれ出して止まらない。
どっちが正しいの? 我慢しなくていいと言われたけれど、
こうまであふれ出す恋情の熱さは、正直、自分でも怖いほどで。

 「…敦、興奮し過ぎるのはよくない。」

気持ちが高ぶりすぎては良くないと、それを思ってくれての言いようだのに、
はぐらかしかかったと思われたらしく、

 「ねえ、男同士なのに もっとって思うのは
  やっぱりいけないことなんでしょか。///////」

打って変わって目許をたわめ、
すがるような声を出されては。
そんな寂しそうな顔も声も関係なくのこと、
常に思ってたこと、中也の側でも隠せなくなる。
っは と短く息をつき、それで思い切ってのそのまま、

  「…………そんなことねぇさ。」

応じた中也の腕が、愛し子の肢体をぎゅうと抱き寄せており。
惑いがそのままこごって熱を帯びてしまったように、
いつもよりじんわりと熱い肌を意識して、

 “…っ。////////”

雄々しい胸の奥、何かが ずきりと捩れて撥ねる。
もどかしいのはお互い様で、
敦が言葉に出来ぬと焦れているのと同じよに、
こちらは そんな焦燥を抱いたまま行動に出ていいものかと
微熱のようなくすぶりを持て余していただけのこと。
先程までのよに、それしか選べぬような状況や理由ででもない限り
抱いてはいけない対象なのか?
こんなに愛しくてならぬ人、なのに触れてはならぬのか?
幼いながらもこうまで焦れているほど、
恋情に振り回されているその懊悩を、
同じ想いと受け取って
綯い混ぜにし合ってもいいのではなかろうか。

 「…敦。」

本当を言うとと、
掠れそうになる声で紡ぐのは、もしかしたら今更な弱音かも。

 「こんな風にのっぴきならぬ背景に流されてなんて格好で
  触れ合いたくはなかった。」

もっとちゃんと互いを判り合い、信頼されて好いてもらって。
そういう順を踏んで、なんて
真っ当な人間が言うよなことをそれでも並べた中也だったのへ、

「もうそれ全部、ボクは中也さんから貰ってますよ?」

敦はゆるゆるとかぶりを振る。それにと続いたのが、

「ボクだって中也さんに預けてますし。」

先の判らないことだって中也さんにされるなら怖くない、
今日だって こんな運びは恥ずかしいとは思っても
傍にいてくれるのが嬉しいって躍り上がりそうになったほどで。

 気づいてなかったですか?と、
 言いかかった唇がしゃにむな勢いで塞がれて

再び重なった唇は、だが、触れるだけのそれでは物足りないか、
互いのそこへすがりつくよに、もっともっとを求めてやまぬ。

 「…ん、んぅ。/////////」

離れかかっては吐息や微熱を割り込ませ。
舌先で混ぜ合わせて吐き出す それ越しの熱が、
不意にざらりとした熱いものへ触れ。
あっと弾かれるように一瞬離れたものの、
相手が離れるのは いやなのか、
追いかけるよに捕まえ合うと、なお深々と唇が重なる。
一瞬触れた熱いもの、も一度 触れれば舌だと判り、
恐る恐るに先だけ触れて、でもそれ以上はまだ無理と、
唇同士を蹂躙し合って。

 「あ…う、ぅん…。///////」

柔らかすぎてもどかしい、でもそれは甘くて離れがたい口許から、
それもいつもの常で、中也の唇が耳元へと逸れてゆき。

 「…っ。」

ひくりと震えて上がったおとがいの縁を経て、
露になった白い喉、ゆっくりと唇の先で撫でてゆけば、

 「…ん、あ…ぅ…。////////」

ただでさえ敏感なところ、
強く押し付けられているのに
それ自体は微妙にやわらかい舌先が触れるのが さぞやくすぐったかろうに。
くっと息を詰め、我慢してくれるのがまた愛おしい。
かすかな震えも伝わってくるのを柔らかな肌越しに受け止めて、
するするとすべり降りた先で、だが、ふと口許を離した中也であり。

 “………え?//////”

いやに短かったことを不審に思い、
どしたの?と間近い相手を伺えば、

 「跡が残ると困るだろうよ。」

こんなすべすべした肌だもの、
うっかりしたこと仕掛かれば、またもやあんなことになる。
喉元にうっかり刻んでしまった鬱血痕で
図らずも大騒ぎになった記憶はそうそう昔の話じゃあない。
今宵もついつい何度か口づけを降らせたが、幸いにしてああまでの鬱血はない。
もしかして敦の異能が少しほど発動され、超回復で消されたのかも。
だというのに、改めてわざわざ痕を残さずともと、
それを厭うた中也なのが、嬉しいけれどもどかしく。
敦の側が ううと言葉に詰まっていたのも僅かな間のこと。

 「…ここなら見えない。」

その白い手がシャツの襟首を自身ではだける。
尚のこと白く、
しかも常に秘された処。
だのに なまめかしい香りが滲む肌が覗き、

 「…っ、//////////」

そればかりはダメだってと、言うのは容易いが、
それって…そうまで思い切った彼を突き放すことになりはせぬか。
もっと欲しいと思うのは罪なのか、それへと応じたくせに、
此処で尻込みするのは、それこそ生半可ではないか。
そんな二つの想いが一挙に重なり、

  「  …あつし。」

やや逃げ腰になりかけたのも一瞬の気の迷い。
切なげに見上げてくる愛しい人が、哀願するよに目許を歪めてはもういけない。
小さな痩躯を抱きすくめ、
その胸元へと顔を埋める中也であり。

 「 …っ。////////」

敦のまろやかな肩がひくりと震え、
だが、嫋やかな腕が懸命に愛しい人を抱きしめて。
かすかな痛さへ眉が寄ったが、口許には甘い笑み。

  ああこのまま、時が止まってしまえば良いのになぁなんて

案じてくれている人がたんといるというに、
ついつい思ってしまった二人だった。




 to be continued. (17.09.10.〜)




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 *なんかまだまだ続いて申し訳ありません。
  緊急避難というか、事情が事情だったからという抱擁だったのが、
  ちょいと不満になった敦くんだったよで。
  この先も同じような椿事が出來しないとこんな抱擁はしてもらえないのかなぁ、
  そんなのやだなぁと思ったらしいです。